Tuesday, August 08, 2006

読売新聞8月8日付・編集手帳


読売新聞8月8日付・編集手帳

読売新聞の朝刊一面の「編集手帳」。
原稿用紙1枚半、600字足らずの文章の中に、時勢の話題が盛り込まれている。
朝日の「天声人語」は有名だが、読売の「編集手帳」は、それに劣らず見事な文章が毎日綴られている。
立秋の日、小生も「眼高手低」にならないよう、精進しなければ、と思った。

『蕪村に、「秋の蚊の人を尋ぬる心かな」という句がある。暦の上とはいえ秋の声を聞けば、盛りのころにはときに眉(まゆ)をひそめた羽音にも、人はいくばくかの哀れを感じる。きょうは立秋である◆濃い緑が美しい信州から田中康夫知事落選の報が届く。6年前に初当選した折の熱風を思い起こし、支持、不支持の立場は別にして季節の移ろいを実感した人は多いはずである◆着眼は鋭く理想は高くとも、実行に移す手腕が伴わない人を評して「眼高手低」という。県議会との意思の疎通をおろそかにし、県政の混迷をいたずらに深めた田中氏の「手低」が敗因といわれる◆県政に巣くう官僚支配というヤブ蚊にうんざりした人々の拍手に迎えられたものの、香りのいい蚊遣(や)り香をたいてくれるかと思いきや、短兵急にヤブを焼き払う。手荒さに、蚊よりも先に県民が音を上げた◆負ければ一から十まで悪く言われるのが政治の世界だが、土木事業だけが地方再生の道か――と問うた田中氏の「眼高」に共鳴する人は、いまなお少なくない。当選した村井仁氏の61万票に対し、田中氏は53万票を集めている◆蚊取り線香の火は、渦巻きを一巡しても同じ場所には戻らない。行政の火もそうあるべきだろう。ヤブ蚊が謳歌(おうか)する「田中以前」の昔に回帰するだけならば、6年の歳月が無駄になる。』
平成18年8月9日

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